ADF――

アナザー・ディメンショナル・ファイトの略称。

住む者以外は誰も存在を知らないとまで言われる未来都市、シャイル・ジュエの人気格闘技番組の名称でもある。

プログラムによって作られた疑似空間内での、賞金を賭けた戦いだ。

ルールは以下の通り。

 

・疑似空間(以下、フィールド)内での、バトルロイヤル。

・攻撃を与えると、そのダメージ値に応じて賞金が稼げる。

・ダメージを受けても死ぬことはないが、あらゆる感覚は現実のそれと同じ。

・身体能力が高まる。また、経験に応じて、フィールド内でのみ強化される。

・戦いの中で、特殊能力を発現することもある。二つ以上の能力を持つ者もいる。

・現実であれば致死量のダメージを受けると、その選手はゲームオーバーとなる。すでに獲得している賞金はそのまま受け取れる。

・勝利条件は、時間内に生き残り、敵に与えた肉体的ダメージ値が最も高いこと。

・3位以内になったものにはさらに賞金が支払われる。賞金額は、試合によって異なる。

・その他、最多ダメージ賞、最小被ダメージ賞といった特別賞の賞金あり。

・フィールド内には、宝箱が隠されていることがあり、武器や回復アイテム、賞金、トラップが入っている。

 

選手にとって魅力なのは、勝っても負けても、大きく稼ぐチャンスであることだ。

この賞金は、主に観客達の寄付金からでている。類希な好景気が1000年続いている、シャイル・ジュエ都心部だからこそできる贅沢な遊びなのだ。

もう一つの魅力。それは、一切の反則行為が存在しない点。

なにをしても、自由。

顔を殴ろうが急所を穿とうが、その場で踊ろうが好きにしていい。無論、踊れば隙をつかれ敗北するだろうが。

そして当然、弱い相手や、疲れ切った敵、動きを封じた者を好きにすることも、できる。

何をどうするのか……言うまでもないだろう。

それらが生み出すのは、背徳的な期待。

現実でできない行動を、自由にできると言うこと。むろん、罪に問われることはない。そう言った部分はあくまでエンターテインメント、ショーとしての扱いとなり、現実社会での人物評価に関しても問題は起こらない。

と、言うより、目にする客、この国の住人達がこの戦いを楽しみ続けるために、自ら努めて問題視せずにいるというのが正しいと言えた。

 

今日もまた、ADFのショーが開催された。

この日のステージは、森。

ファンタジーの世界を現したような世界。

そんな中で、中世の戦士風の格好をした一人の男が、特殊能力を使い、対戦相手の騎士風の女を倒していたところであった。

「ブレイブソード!」

特殊能力によってその手に現れる、光の剣。持っている者にとっては重さも感じないが、喰らう者には恐ろしいまでの破壊力を持つ。

その剣で、一閃。

「くっ!! ……う!」

上半身の鎧がはじけ飛び、たわわな乳房が露わになる女騎士。

「あ、ぐっ! こ、この最低男め!」

「ひゃはっ!」

邪悪な笑みを浮かべて、男はさらに、腹に拳の一撃を見舞う。腹パン。

「あぐっ!」

体を前屈させてしまう、女騎士。

「弱いなお前は」涎すら垂らす、男。

「ば、バカにするな……!」

「ほらほら、オーバーザニーのスパンキングだ、ほらほらほらあ!」

「や、やめろおおおおお!」

力の差は歴然。決してこの女騎士も弱くはないが、哀れにもダメージに動きを奪われ、胸だけでなく尻までもするりと暴かれ、叩かれ続ける憂き目に遭った。

やっと動いて反撃というところで、尻の穴につま先蹴りを叩きこまれ、敗北することとなる。「うがはああああああああーーーー!」という騎士の誇りなど感じられない、悲鳴を上げつつ。

 

……普通に戦う者も大勢いるのだが、一番人気の見どころと言えば、先程言うまでもないと述べたこの点であることだ。それも、言うまでもない。

 

その日の試合が終了し、次回のステージは、夜のビル街と予告された。様々な高さの高層ビルが建ち並び、時折車も走っている。

ビルからの光や、街灯、車のライトのみを光源として、選手達は戦うことになる。

 

制限時間は、1時間。

 

今日の参加人数は、30人。

その中には、チャンピオンもいる。

ミシロ・ライメイである。

金髪の女性。27歳。

美女。優しい曲線を描くような目鼻立ちと、薄い唇をし、戦いの際にはその目を研ぎ澄まされた刃のように細める。

高身長。

豊満。説明不要。

特殊能力・モンスタードライブ。一時的に身体能力を上昇させ、前方へ突撃する。

服装は、黒い鴉の翼を思わせるコート。その中に白いシャツとズボンを着込んでいる。靴は黒いブーツ。

 

男性からの人気は高く、彼女をどうにかしようとして選手となった者も少なくないと言う。どうにかできた者はいないが。

 

 

そしてもう一人、別の意味で男性に人気のある出場者が、誕生しようとしていた。

 

 

 

〜〜〜〜。

 

僕は、トウヤ・ササギリ。

普段は、冴えない中学生。

たまに女の子達にかわいーって言われるけど、男なんだよ?

妹が一人いる。ミチャっていう名前。

でも、今は病院で過ごしている。

両親の蓄えだけでは、助けられない大きな病気を患っているんだ。

僕は、3ヶ月前、ミチャを助けるために、DMFの選手登録をした。

 

一戦目は、負けた。真っ先にチャンピオンのミシロさんに殴られて。

二戦目。負けた。ミシロさんから離れようとしたところで、他の選手に投げ飛ばされて、頭から落ちて。

三戦目、負けた。きゅ、急所蹴りは恥ずかしいよお。

四戦目、負けた。お尻でつぶされてギブアップ。

五戦目は、アーマーブレイクっていうか服ビリっていうか、裸にされて……もういいよねえ!? 女の人たちに笑われて死んじゃいそうだった……世間的評価が落ちるわけじゃないって言うけど、学校でのみんなの視線がすごく気になった……はあ。

で、でも最近は、逃げ回って5分くらいは保つようになったよ!? と思ったら、またすぐに負けるようになった。

曰く、僕は、弱いから被ダメージ量も極端に高くなり、賞金稼ぎにはもってこいの的になるからって言うことらしい。はあ。

戦闘時間が短いから、特殊能力もまだ発現しない。

そしてなにより、今まで、一度も賞金を得られたこともない。ミチャを助けられるのはいつの日か……。

 

 

今日も、ADFの試合が始まろうとしている。

まずは、スタジアムに集まる。そして通路から、試合場へ入ると、そこはもうフィールドの中。疑似空間の中になるんだ。

そこで意識が具現化し、疑似空間の中で実体になり、着ている服や身体能力が、プログラムされた通りの形に変化する。

僕はいつも、学校帰りのままここに来る。近くの店で何か食べてね。だからいつも、学制服だ。でも、戦うときは、青いシャツとグレーの半ズボンにスニーカー、そしてなぜかつば付きの帽子という服装に変わる。

 

よし。

「さあー、本日も始まりました、ADF! 司会のミスター・フューチャーです!」

フィールドの上空には、赤青白のド派手なシルクハットを被った司会者がいる。みんなMrって呼んでいる。この声の後に、観客の皆さんが大盛り上がりの声を上げるのがお決まり。

ミシロさああああん! とか、

ミリルちゃーーーん! とか、

きゃーっ! シナク様ーーーー! とかの声がそこかしこから聞こえてくる。

全員、強くて人気のある、上位の選手ばかり。

僕も人気がでないかな……なんて。ミチャを助けにきたんだから雑念はだめ!

今日は、絶対に、賞金を手に入れるんだ!

「さあて、今回のフィールドは、夜のビル街です!」

 

各選手が、それぞれいろいろなビルの屋上に立った。開始場所は、ランダムで決定されるけど、すぐ近くに人がいることはないということになっている。僕は、今回、街中心の、一番高いビルに立った。

「うわあ、高い……」

フィールド内では身体力が上がっているから、落ちても死ぬことはたぶんないけど、やっぱり怖い。

6戦目も確かここでやったんだ。高さにビビってたら、後ろから蹴りとばされて終わったけど……ちなみにこの世界では、100M上から落ちて地面に激突するより、強敵に殴られたり蹴られたりする方がずっと恐ろしいことになる。

 

まずは、周りを見回した。

他のビルでは、他のみんなが戦っている。ビルからビルへなんてひとっとびの人もいるんだ。

今のところ、僕の周りに敵が近づいている様子はない。

よかった。とりあえず、早々にやられる心配はない。階段で中に入ってみよう。隠れられるし、宝箱があるかもしれない。

 

「おおーーっと、Bビルで、ボガード選手、ミリル選手を締めあげる……しかし、キックで返されたー!」

「さらにAビルでは、最近調子を上げている女忍者アシタナが……うわっと、優勝候補のドS勇者サイデスに目をつけられたーっ! これは性的に危険信号ーーっ!」

「そしてFビルでは、早くもバニーガールのエイスちゃんが大ピンチー! 簡単にマンモロしてしまいましたーっ!」

Mrの忙しい司会の声が聞こえてくる中、僕は階段を降り終わった。

 

「見つけた!」

階段を降りるとそこには、会議室のドアがあった。中では、書類がぶちまけられていて、机がいくつか、真四角になるように並べられている。

その中心に、宝箱が置いてあった!一番うれしいのは賞金だけど、どうだろう?

しかし、分かりやすい宝箱だなあ。茶色い木製、鉄の縁。目立つから助かるけどね。

……それを開こうと、指をかけた時だった。

「こんばんは」

あっ。

僕の真後ろ、背後にある窓に、人影があった。外から、一人、声をかけてきたんだ。

それも、ミシロ・ライメイ。

背が高くって、大人で、きれいで、ミステリアスで、魅惑的で、すごく強い、チャンピオンが!!

僕にとっての一戦目を、簡単に終わらせたあの人が!

「ふっ!」

僕が振り返るった時、ミシロさんはパンチを繰り出していた。あっさりと、窓が粉々になる。びしりと白い筋が蜘蛛の巣のように広がって、会議室の中に、白いキラキラの雨のようにして流れ落ちた。

「あ、ああああ」

「悪いわね、今日も、即ゲームオーバーになってもらうわ」

ミシロさんはきれいな顔に似合わない厳しい目つきをして、黒コートをマントのように翻して窓枠からたあんと跳び、部屋の床に立った。

「せ、せめて! せめて宝箱だけでもっ!」

「させない!」

厳しすぎる! いくら何でも! もらえるものは何でももらうのがこの戦いだってことはわかるけど! 一切のチャンスも敵に与えてはいけないってのもわかるけど!

せめてミチャを救うまでは勘弁してくださいいいいいっ!

ものすごい速さで、ミシロさんは、僕の喉元にその指先を潜り込ませた。

いわゆる、地獄突きに近いけど、これは違う。

喉を突き破って、そのまま手全体を使って首をハネ落とす、恐ろしい技だ。

 

「ひっ! ひええええええええあっ!」

 

死。

本当に死ぬわけじゃないけど、感覚は全部同じ。

その一瞬、僕は恐さに支配された。

負けか……そう思ったけれど、あれ?

止まった。

喉に、やんわり滑らかな点の感触。ミシロさんの指先が当たっているのはわかる。

でも、それがどうして、僕の喉を貫いてこないのだろう。

ミシロさん、固まって、その視線、下を見ている?

……あ。

……あ?

……あ!

ああっ!!

 

「ああっとJビルの中で、トウヤ選手、ミシロの一撃に怯え、おもらしだああ〜〜!」

Mrフューチャーが伝えてほしくないことを大声で、国中の観客に伝えた……

「あはははははは!!」

観客達が大笑い。

今頃、国中で爆笑が起きていることだろう。

ADF始まって以来の雑魚……13歳にもなる男が、おもらし完敗! って。

ここで起きたことが、元の日常で取りざたされることがないとは言うけれど。それはわかるけれど! 明日学校で絶対笑われる!

「ああああああ……」

前が熱い……。

濡れてる。

太股まで。

足首にもちょっときた。

そんな。

今までこんなことなかったのに。

こんなにビビるものなの?

「ごめんなさいね。まさかだったわ」ミシロさんが顔を赤くして謝ってきた……惨めになるからやめてええ!

ミシロさんは、すぐ気持ちを切り替えて、もう一度僕を睨み、言った。

「で、でも、勝負は勝負よ。はっ!」

ひゃあ! 僕はとっさに、ミシロさんのハイキックを、しゃがんでかわした。あれ、普通なら僕のスピードでかわせるものじゃないはずなのに?

「う」

って、め、目の前に、おもいっきり広がったミシロさんの脚の……ごめんなさい。

いや、そんなことを考えてる場合じゃない! ミシロさんなら、キックをかわされたら、次はその蹴り脚をかかと落としにして追撃してくるはずだ! でも、どこにかわす? 右も左も同じに思える。懐に飛び込んでもパンチ、離れても、やっぱりすぐに近寄られて地獄突きか何かがくる……いや。そうだ。

「うわあああああっ!」

おもいっきり、飛び退いた。僕が選んだのは、後ろだ。

「ああっと逃げたかー!?」笑い声に混じってそう言うけど、Mrフューチャー、それは違うよ!

僕の目的は、宝箱だ!

 

勢いをつけて、背中から宝箱に体当たり。そうすれば、開けたことになるはず。このまま負けたとしても賞金がもらえるかもしれないし、ひょっとしたら少しは戦えるアイテムが入っているかもしれない。トラップだったら? でも、なにもしないでただやられるよりはずっとマシだよね。

宝箱がごわぐっ、と壊れる、そんな感触があった。少し痛いけど大したダメージじゃない。金色の光が、ミシロさんを照らした。宝箱から漏れでた光だろう。うっ!? と叫び、そのまぶしさに目をくらまされたミシロさんは、右手を僕に向けて一歩引き、防御態勢を取った。さ、さすが……でも、宝箱にはいったいなにが入っていたのか……?

「ああっと、トウヤ! 宝箱に激突ー! 運良くアイテムを手に入れたようだー! だが、アイテムを使ったところでミシロに勝てるとは思えないぞー!」

またいやな言い方をするう。か、観客の皆も笑いすぎだよ! 僕は自分で考えて宝箱を壊したんだ! でも、おかげで、入っていたのがアイテムだとわかった。いったいなんだ? そうだ、後ろを振り向かないと手に取れない、使うことができない。背を向ければ、ミシロさんにやられてしまう。まずい!?

杞憂だったことは、すぐにわかった。

体の中に、熱い何かが上向いてくるのを感じたから。

そして、Mrが説明してくれたからだ。

「でたあーっ! レアアイテム、スキルスイッチ! 特殊能力を引き出す力を持った強力アイテム! 今までDMF32年の歴史の中でも、2度しか引かれていない激レアアイテムだーっ!」

おおおーっ?! と観客が湧く。

期待してくれている?

そんなすごいアイテムを手に入れて、強力な特殊能力を得て、大化けする姿を……!?

そうだ、今から僕は、変わる。

この能力を駆使して、ミシロさんを倒してチャンピオンになる! そのミシロさんは、宝箱からの光が目に入って、うまく動けないようだし……いや、もしかして僕の能力がすでに発動してるのかな? 動きを止める力? そうでないとしたら、とにかく発動だ! 特殊能力は自ら念じればそれだけで使えるという。

 

「いくぞ……能力発動!」つい、口から言ってしまった。恥ずかしいなあ。

「ふっ」

ミシロさんが、笑った。

光がまぶしい、と言うような、顔を覆ったポーズから、普通に仁王立ちして、笑みを浮かべたんだ。

ギラリとした、怖い笑顔。そんな風に思えた。また、おしっこを漏らしてしまうんじゃないかと、気にしてしまう。

怒らせた……?

そんなバカな。なにもしてない。い、いや、大開脚に見とれちゃったけど。まさか、こんな雑魚をすぐに倒せなかったことが屈辱だったとか? う、なんか、すごいやばい気がする!

「こ、これは、チャンピオンミシロ、どうした?! 静かにキレたかあ!?」とMr。

観客も、それで静かにざわついた。

まずい。まずい。まずい。やばい!?

それにしてもどうしたんだ、何も起きてない! 僕の特殊能力は使えないのか? まさか、不発?

ミシロさんを前に、ガクつく僕。本当に死ぬ訳じゃないけど、殺される、という思いでいっぱい・・おもいっきり強烈な一撃がくる。そんな予感でいっぱいだ。

動けない。

ミシロさんは、動いた。

まずい。

チャンピオンを、怒らせた報いが、来る。

ミシロさんは、手を挙げた。両手の指をぴんと伸ばして、小指同士をあわせ、顔の前に、もっていった。

同時に、右足を前に踏み出して、左足を後ろに伸ばす。

見たこともない構え。

広報にも載っていなかった、まさかの隠し技?

「お、おおっと、チャンピオンミシロ、この動きは一体ーー?」とMr。

観客もやっぱり、ざわめく。

まずい。まずい。まずい。まずい。

僕はみっともなくふるえた。もう一度おもらしは確実。ゲームオーバーして現実世界に戻ったとき、本物の肉体もおもらししてるかもしれない。そんな哀れな負け、いやだ。でも、でも……怖くて動けない! ギブアップと叫ぶことも、できない!

次の瞬間、ミシロさんは、そのポーズのまま垂直に飛び上がり、回っていた。

「ぴょとととぴー! ぴょとととぴー! 風見鶏ぐるんぐるん! 風見鶏ぐるんぐるんぴーーーーっ!」

……へ?

僕は、唖然とした。

「は?」Mrが気の抜けた声を出す。

観客の声も、そういう、なんというか、変な疑問を表すのに一文字か二文字ずつ使ってる、え? へ?ふへ? はあ?そんな感じだ。

そして、僕も、目が点になってしまった。別の意味で動けない。

だって、今度はミシロさん、お尻を向けて振り乱し始めたんだから。

「でかでかでかパイ! デカパい音頭〜! ぷりっぷりぷり! ごりらららら〜〜〜〜!」

大きなお尻を振りながら、お、おっぱいの話? どういうことなの? し、しかも、みたこともないすっごい笑顔!? うわ、楽しそう?!

「どぎゃんぽーっ! あぎゃんぽーっ! ぬははははは! おまえも一緒にはいらんか〜〜! 我々のとっぽかんてんとんてんか〜〜〜〜〜ん!」

変な笑いと共に、ついに意味不明なことを言い出すミシロさん。顔もひょうきんな、猿みたいになっちゃって。

そして、また両手をねじりつつ、V字型に挙げて、右膝も挙げて、左のつま先で立つ。

今度はこれ、鶴の構え!? 拳法の!? 

「きょへーーーーーっ!!」

あ、飛び降りた!? さっき自分が砕いた窓から!?

ここ、超高層ビルだよ!?

さすがにダメージはあるよね?!

 

……落下していく音が、しない。その代わり、なんだろう……ぺたぺたと硬いものに柔らかいものが張り付く音が……?

 

「かさかさかさかさ」

 

ん?

「かさかさかさかさかさかさかさ……」

え?

「ばっはっはああああ〜〜〜〜! ゴキブリ仮面参上ぉおおーーーー!」

うわわわあああああ?!

窓の下から、ミシロさんが飛び出してきた!? い、いつの間にか、すっぽんぽんで!? 飛び降りながら脱いで、壁につかまって、ゴキブリみたいにここまで壁を這ってやってきたって言うの!?

す、すごいものをみてしまった……間近で!!

きれいで豊かで柔らかい、おっぱいや、太股、それに女の人のアレ……ピンク色の割れ目に、手入れの行き届いてしっかりなめらかな金色の毛も……。あうう。両手はばんざい、両足は全開の、とんでもないポーズで丸出しにして、しっかり僕に見せつけてきたー!

「ばあああーーーーーーーーーーっ!」

それも、すっごい笑顔でーーーーっ!

さらにさらに、そのポーズのままガラスの破片の上に着地しておきながら、一切動じずに、前後へ腰を揺するミシロさん。顔がなんかとろけそうで、赤くなってますけど? それに、よだれ……とんでもない変態になっちゃってますけどー!?

「ほおーれぎょへぎょへへ……はっ!?」

え?

急に、顔が、普通になった。いや、驚き顔だ。

「え……私、なにを……………………え、ええええええ!?」

驚愕の叫び。自分がなにをしてしまったか、今気づいた後悔の叫びだ。

ミシロさんは間抜けなポーズのまま、数十秒叫び続けた。いや、数秒? 長く感じられた気がする。

「あなたがやらせたのね!?」

え?

顔を上げて、ミシロさんが、僕を睨んだ。涙目で、歯を食いしばって、真っ赤になって、悔しそうに……やばい!? 今度こそ、本当に!?

「モンスタードライブぅうううっ!」

う、うわあああああーーーっ!? すっぽんぽんのおっぱいがおそってきたあああああ!?

モンスタードライブ。ミシロさんの強力な特殊能力。身体能力を急上昇させての突進。僕は、この恐るべき一撃によって、せっかく特殊能力を発現したにも関わらず、また賞金なしの大敗を喫したのでした……。

結局最後に勝ったのは、やっぱりミシロさんだった。

 

 

でも、その夜の広報サイトに、僕の記事が載っていた。いや、まあ、メインはミシロさんなんだけどもね……裸で飛び出す瞬間をおもいっきり写真に収められちゃって、それがデカデカと。カメラにお尻を向けて、壁をよじ登る様も。

記事のタイトルはこう。「快挙! 新人少年、チャンピオンを丸裸!」だって。

僕の能力は、相手をバカにするものであったらしい。プログラムをおかしくして、頭を狂わせてしまうという、恐ろしい能力だ。と書いてある。それによって、あのミシロさんが変態になってしまったと。

ネットでは、大量の賞賛の声が僕に向けられている。

「よくやった」

「能力欲しい」

「リスミたんにも使ってくれ!」等々。

でもどうしよう。次にミシロさんと同じフィールドに立ったとき、今度こそ真っ先にやられちゃうんじゃないだろうか。

ああ、ミチャ、待っててくれ……。

 

……

 

 

で、でもすごかったな、ミシロさんの……う。

 

 

 

 

 

 

んっ。

 

 

 

〜〜〜〜。

 

 

 

「ああもう……今日からどうやって戦えばいいの!?」

ああ……チャンピオンたるものがあんな醜態を……

最悪の屈辱だわ。一度気持ちを切り替えるために夜はすぐに寝て、そして落ち着いてから昨日の放送を見たけど、あんな、とんでもないバカになってしまうなんて。なんて最低で恐ろしい能力なのよ。あの子は!

おもらししているあの姿に対して、目を閉じたまま攻撃したら汚いかも、なんて思って攻撃を止めたのが間違いだったわあああああ!

悔やんでも悔やみきれない大失態。

次に会った時どうしてくれようかしら……はあ、はああ……

 

 

 

でも、どうしてあの子がおもらししている夢を見てしまったのかしら。

んん……

 

 

 

 

 

んっ。